2024/8/24公開
ライナーノーツ第二弾・けむり「行くぞ」
なるぎれを約4年間、至近距離で見てきた。 バンドとして日に日に完成度を増し変化するなかでも、彼らのテーマは一貫していた。 夏、あの日の教室、別離と自意識、僕とあの娘をとりまく町。はるか後方に目をやり、それをバンドとして表現してきた。
しかし、今作ではそのテーマを色濃く残しつつも、いくつかの歌詞の改訂や新曲からは、煩悶しつつ未来に一歩踏み出すような情景が少し見られるようになった感じがする。 僕には、あの不器用で口下手なGt.Vo.ことりが、それでも、と声を振り絞っているように聴こえた。 大学卒業や就職などの環境の変化が、彼に少しだけ未来に目を向けさせたのかもしれない。
若者が若者でなくなるとき、僕らはなにを感じるのだろう。 器用なあいつらなら安心して旅にでも出るんだろう。でも、僕らは?なるぎれを好きになるような僕らや、「次回のなるぎれ」はどこに行き、何を見て、何を感じるのか。 今年の夏はなるぎれを聴いてそんなことを考えてみようと思った。
2024/8/23公開
ライナーノーツ第一弾・CULTE「八月」
このアルバムを万人に勧めていいのかと問われると、必ずしもイエスとは言えない。少しでも聴いてもらえれば分かるだろう。メロディはポップかつキャッチーで無意識のうちに口ずさめる。コーラスの効いたギターは爽やかで疾走感に溢れる。どの曲もリフが明快で一度聞けば簡単には忘れられない。ただ、よく、よく歌詞を読み返してほしい。そこに描かれている一人称の彼は、決して日々の生活を上手くやり過ごせてはいなそうだ。それどころか「嫌われるとは思わなかった 何もないとは思わなかった(インストール)」「友達とも言えない 目をそらされている気がする(rafel)」といったように、彼は自己完結したどうしようもない悩みに苦しめられているようにさえ思える。
彼の正体が一体誰なのか、私たちが一番よく知っているだろう。彼は紛れもなくかつての我々だ。手の付けられない自意識を抱え、その一方で誰かの存在を強く意識して、自分の置かれている環境に居場所を見つけられず葛藤したかつての我々だ。もちろん今まさにそんな苦しみの渦中にいる人もいるかもしれない。また、そんなの全然理解できねぇよという人もいるだろう。当然だ。そこで冒頭の話に戻るのである。失敗や衝突を知らずに何もかも上手くいった人生を過ごしてきた人間がこのCDを聞いて何を思うか、俺には到底想像できない。しかし、彼のようにもがき必死に今までやり過ごしてきた我々を、イヤホンで耳を塞ぎ日々を凌いだ我々を、三年間どこか空虚に過ごしてきた我々を、このアルバムは肯定するのである。
しかし、本アルバムはそれに留まらない。「退屈な日々にも いつかは終わりが来る 一人だけの世界に吹く この風の色も変わる (夏暁)」「春には戻らない 過去には戻れない 悔しさを忘れないように (NRGL)」彼は過去にけじめをつけ、次の世界を受け入れる。今の身分を漠然と卒業するのではなく、自分の意志を持って今の環境にケジメをつけ、新たな世界へ飛び込もうとする。あの頃の自分との離別こそが本作の主題であり、この一枚が今我々にとって必要である第一の理由である。
本作「nerds ruined girls legislation」は間違いなく、我々が今最も聴くべき一枚で、我々のターニングポイントとなる一枚である。また、是非前作の「boy meets girl & himself」も併せて聞いてみて欲しい。より今作の主題が明確になるだろう。